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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)170号 決定 1984年7月18日

抗告人

植木しげ子

右代理人

棚村重信

相手方

弘前農村工業農業協同組合

右代表者清算人

前田勇造

右代理人

羽田忠義

小池剛彦

債権者弘前農村工業農業協同組合、債務者破産者河東農産株式会社破産管財人宮下勇間の長野地方裁判所昭和四七年(ケ)第三六ないし第三九号不動産任意競売事件について、同裁判所が昭和五九年二月七日にした競売代金納付命令に対し、抗告人から即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙即時抗告申立書のとおりである。

二競売法(昭和五四年法律第四号による廃止前のもの、以下同じ)にもとづく不動産の競売の手続については、明文の規定がない場合であつても、その性質に反しないかぎり民事訴訟法中昭和五四年法律第四号による改正前の第六編強制執行の規定が準用されるから、競落人が債権者である場合には、右改正前の民事訴訟法六九九条の規定の準用があり、したがつて、競落人が債権者として差引計算をすることが認められるためには、利害関係ある他の債権者等から差引計算による代金納付について異議がないことが必要である。

三これを本件についてみると、一件記録によれば次の事実が認められる。

1  相手方は本件競売事件において、別紙「債権目録」記載の四口の債権を請求債権としていたが、右のうち同目録二ないし四記載の債権は、既に競売された物件の競売手続において配当を受ける等して消滅し、現時点においては右請求債権として同目録一記載の債権のみが存在すること、

2  原裁判所は本件競売事件において別紙「物件目録」記載の不動産(19ないし23の建物に備え付けた工場抵当法三条の機械器具を含む。)を一括して競売に付し、抗告人はこれを一億六六〇〇万円で競落したが、その代金納入にあたつては、別紙「抵当権付債権一覧表」(以下「別表」という。)記載の抵当権付債権を有しているとして、右代金と右債権とを対当額で相殺する旨の届出を昭和五九年一月二七日に原裁判所にするとともに、右代金額から既に納付した競売保証金額及び右債権額を控除した七八二〇万三五八七円を納入したこと、

3  これに対して、相手方は、抗告人の主張する債権の存在そのものを争うとともに、抗告人の前記債権中には相手方の抵当権よりも劣後するものもあり、相手方の優先弁済権を侵害するものであるとして、抗告人の前記差引計算に対してその全額について異議を申し立てたこと、

4  原裁判所は、同年二月七日右異議を認め、抗告人に対し、不足する七一一九万六四一三円を同月二〇日午後三時までに納付することを命ずる決定(以下「原決定」という。)をしたこと、

5  ところで、本件競売事件における相手方の請求債権中現存する前記債権を被担保債権とする抵当権は別紙物件目録5ないし7及び21記載の不動産に設定され、その旨の設定登記が経由されているが、相手方は、本件請求債権にかかる抵当権以外にも、別紙物件目録中右不動産を除くその余の物件についていずれも長野地方法務局須坂出張所昭和四六年九月一〇日受附第九九一九号又は第九九二〇号をもつて、相手方のために債務者を河東農産株式会社、債権額を一億円、利息を日歩二銭四厘、損害金を日歩八銭とする昭和四三年一月一〇日付金銭消費貸借契約の昭和四六年九月一日付設定契約にもとづく抵当権設定登記を経由していること、

以上の事実が認められる。

四抗告人は、相手方において前記一億円の債権を有しているとしても相手方の優先弁済権を侵害しない旨主張するが、前記認定の事実関係からすれば、抗告人の有するとする債権の存否、額のいかんが相手方の前記各抵当権に基づき受けるべき配当額に影響を与えることは明らかであるといわざるをえない。

以上のように、相手方において抗告人の差引計算についてその全額について異議を申立てる利益がある以上、抗告人は差引計算にかかる全額を納付する義務があるというべきである。

なお、抗告人が有するとする債権の存否及びその額については、これを証明するに足りる資料は本件記録中に存しない。

五抗告人は、相手方の異議の理由は執行方法に関する異議の理由としての適格性を欠き不適法である旨主張するが、右主張は右異議の性質を正解しないものであり、前記のように相手方が差引計算による代金納付の許否について利用関係を有する以上、その異議は適法なものということができる(なお、本件のように差引計算による代金納付の可否について争いがある場合、競売裁判所は納付すべき代金額を明らかにして競落人に対しその納付を命ずることができるものと解すべきである。)。

六よつて、抗告人の差引計算を認めず抗告人に対し七一一九万六四一三円の納付を命じた原決定は相当であり、本件抗告は失当であるからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(鈴木重信 加茂紀久男 片桐春一)

即時抗告申立書<省略>

債権目録<省略>

抵当権付債権一覧表<省略>

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